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逃げる太陽 ~俺は名無しの何でも屋!~

逃げる太陽 ~俺は名無しの何でも屋!~

一年で一番長い日 15、16

「シャトー、ムートン? ロートシルト・・・って、すごく高いワインじゃないのか? ののかはどっからそんなお金を・・・」

「そんなに高いものじゃありませんよ、これは」
さらっと智晴が言う。
「お金の心配はいりません。僕がデイトレを教えてあげたんです。ののかちゃんは筋がいい」

俺はその言葉に仰天した。
「デイトレってお前、ののかはまだ五歳だぞ? そんな子供に何教えてるんだ?」
「子供のうちからお金の大切さを教えてるんです」
澄ました顔で答える智晴に、俺は詰め寄った。

「屁理屈言うな! ののかが、一生懸命働いてお金を稼ぐことの大切さの分からない人間になったら、どうしてくれる!」

「大丈夫です。一生懸命、汗水垂らして働くことの大切さは、あなたを見ていれば分かりますよ。子供は親の背中を見て育つって言葉、知ってますよね?」
小首を傾げて楽しげに目で笑う智晴。ああ言えばこう言う。

口ではこいつに勝てない。だから俺はこいつが苦手なんだ。

「あんまり変なことは教えるなよ・・・」
「変なことにならないよう、教えておくんですよ。知識は正しくないとね」
「変な虫がつかないように見張っておけよ?」
「それはもちろん。姉さんみたいに変なのに引っかかったら困りますから」

俺はムッとした。変なのって、俺かよ。何言ってやがる。お前の姉が俺を引っかけたんだっつーの。

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prisonerNo.6はここまで書いて不安げに窓の外を見つめた。雨が、滝のように降っている。大丈夫だろうか・・・ 気象情報に注意しよう。そう呟いて防災グッズの点検をすることに決めた。

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「ののかに、パパがありがとうって言ってたって伝えてくれ。じゃあな、智晴。帰っていいぞ」
俺は智晴のデカイ身体をドアの方に押しやった。

「用が済んだからってすぐ追い出すんですか? ひどいなー。ののかちゃんに言いつけますよ?」
「あ? まだ何かあるのか?」

睨みつける俺の鼻先に、智晴はまたもやどこからともなく派手な包みを取り出してみせた。
「これ、僕からのプレゼント」

「・・・お前はドラ○もんか、それとも手品師か? ハトは出ないのか?」
俺は呆れた。

「お望みとあらば、ハトも出さない事もありませんが?」
俺の目を見てにーっこりと微笑む智晴。何だか、コワイ。こいつならハトも出しかねないような気がする。

「いや、出さなくていいから!」
俺は慌てて隅の台所から客用のコーヒーカップを取ってきた。ブリタの水をがばっと注いで智晴に突き出す。
「これでも飲んで、帰れ!」

「なんですか、コレ?」
「見て分からないか。水だ。ちゃんと浄水してある」

わざとらしく智晴は溜息をついてみせた。
「相変わらず、貧しいですねぇ。水出し緑茶でも買ってあげましょうか?」
「ほっとけ!」

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「まあ、せっかくだからいただいておきましょう。ののかちゃんには、パパは美味しい水を飲んでたよ、って言っておきますね。そうそう、これ、チーズですから冷蔵庫に入れておいてください。スモークチーズ、お好きでしたよね?」

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俺は不機嫌に智晴の顔を睨んでいたが、チーズに罪はない。ヤツの手から引ったくると、ワインと一緒に冷蔵庫に放り込んだ。あ、ワインはののかのプレゼントだから丁寧に扱った、もちろん。

「赤ワインは常温で・・・」
「いいんだよ。この部屋で安定した温度が保てると思うのかお前?」
「そうですね。冷蔵庫が一番安全かもしれません」
智晴はあっさり頷いた。すぐに納得するな! 俺は理不尽な怒りを燻らせた。

「あれ、ずいぶん可愛いのがありますね。でもピアスはののかちゃんには早いんじゃないかな?」
智晴がテーブルの上に放り出してあったマンボウ・ピアスを見ていた。
「いや、これは・・・!」

俺は慌てて二匹のマンボウをつまみ上げ、掌に握りこんだ。別に智晴に見られて困るものじゃない。ないけど、なんだか後ろめたい。例の<謎>のせいだ。

「そういえば、それと同じものを見た事があるような・・・」
何かを思い出すような目で、智晴は俺の握りこんだ手を見つめた。


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